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ものづくりに関わる人がもっと豊かになる社会を目指して。創業139年の家業とともに語る夢

ものづくりに関わる人がもっと豊かになる社会を目指して。創業139年の家業とともに語る夢

日本のものづくり産業を支えるアトツギ:株式会社羽生田鉄工所 羽生田大陸 氏


かつて「ものづくり大国」といわれた日本。製造業は現在も日本のGDPの約2割を占め※1、日本経済を支える中心的な産業のひとつでありながら、人手不足や原材料費の高騰など、多くの課題を抱えている業界でもある。
※1 出典:内閣府「2021年度(令和3年度)国民経済計算年次推計」より

近年、製造業の若者離れが進んでいるとされる中で、26歳のときに家業の株式会社羽生田鉄工所に入社した羽生田大陸(はにゅうだ・りく)さん。もともと工業的な知識は全くなく、「家業を継ぐつもりはなかった」という大陸さんが、なぜ家業の鉄工所に入り、いま新事業の拡大に奮闘するのだろう。話を訊いた。

株式会社羽生田鉄工所 専務取締役 羽生田大陸さん

創業139年。長野のニーズとともに歩んできた羽生田鉄工所

長野県長野市に本社を構える羽生田鉄工所は、1884年創業。農具の鍛冶屋から始まり、その後は工業化の波に乗ってボイラーや圧力容器などを製造してきた老舗鉄工所だ。それらの製造技術をベースにしつつ、130年を超える長い歴史の中で蚕糸やきのこ、味噌といった長野の産業ニーズに合わせた製品を展開。時代ごとに主力商品を変えながら、地域に密着したものづくりを続けてきた。

創業間もない頃の羽生田鉄工所。大正6年頃撮影(画像提供:羽生田鉄工所)

そんな鉄工所を代々受け継ぐ羽生田家の5代目として、三人兄弟の真ん中に生まれた大陸さん。本社の社屋や工場のすぐそばにあった自宅で、常に家業とともに生きてきた。
「自宅が会社や工場とほぼ同じ敷地内にあったので、もう会社の中で育ってきたみたいな感覚です。そこに社宅もあって、昔は従業員の方がたくさん住んでいました。僕も小さい時からよく遊んでもらいましたし、僕が社宅に住んでいる子どもの世話をしたりとかもありましたね」


代々「子どもに継がせよう」という意識が薄く、大陸さんも後継ぎであることを特に意識することなく過ごしてきたという

家業は身近な存在だったが、自分が「継ごう」と思ったことはなかった。ものづくりに漠然とした興味を抱きつつも、これといってやりたいこともなかったという大陸さんは、大学卒業後、父の薦めで中小企業の航空機産業への参入を支援する企業へ就職。家業と近しい業界だったこともあり、仕事で羽生田鉄工所と関わるようになると、今まで知らなかった家業の魅力が見えてきた。

「(羽生田鉄工所が)溶接して圧力容器を作っていることは知っていましたが、それ以上のことは全然知らなかったんです。仕事で関わるうちに、想像以上に長い歴史があって、長野のきのこ産業の成長を下支えしてきたことも知りました。そういう産業を支えられるものづくりの会社ってすごくいいなと思いましたし、しかもうちの事業は自然と続いてきたわけではなく、地元の産業に合わせて意図して変化してきた結果続いてきたというのも魅力的でした」

世界的な市場拡大のポテンシャルを秘めたCFRP

そんなふうに外から家業と関わるなかで、あるとき羽生田鉄工所が作っている製品のひとつに「CFRPを成形する装置」があることを知る。
CFRP(炭素繊維強化プラスチック)とは、鉄よりも軽く強度も高い素材のことで、主に航空機や風力発電ブレード(風車の羽根部分)などに使われている。釣り竿やゴルフシャフトなど、レジャーやスポーツ用品に使われているものの、日本にはCFRPが使われる大規模な市場がなく、その規模は世界と比べて小さいままだ。しかし、環境への配慮などから今後あらゆるものの軽量化が見込まれる中、特に自動車分野での需要増が期待されるなど、世界的にはCFRPの市場規模は拡大していくと想定されている。


CFRPで作られたパネル。綾織の炭素繊維に樹脂を染み込ませ固めたもので、織られた繊維がボーダーに見える

2004年頃からCFRPを成形する「オートクレーブ*2」を製造していた羽生田鉄工所は、よりよい製品づくりのためCFRPの成形技術を磨いていた。そのことを知った大陸さんは、次第にCFRPのポテンシャルの高さに惹かれていく。
*2 圧力容器中の空気を加熱、加圧処理する装置。

「CFRPのことも、羽生田鉄工所がCFRPの装置を作っていることも全然知らなかったのですが、調べるうちにすごくポテンシャルの高い材料だと思ったんです。これから市場が拡大するということもほぼ確定と言われていて、まだまだ技術開発の余地もある材料であると。羽生田鉄工所はこの事業を伸ばした方がいいと思いました」当時の羽生田鉄工所では、CFRPに関してはあくまで「オートクレーブ」の製造にとどまっていた。しかし、創業から100年以上の歴史の中で習得した技術や知見を活用して、羽生田鉄工所にはもっとできることがあるのではないか。大陸さんの中でそんな思いが募っていた。

CFRPは金属などに比べて歴史が浅く、材料に関するノウハウや知見など公開情報が少ないことが普及を妨げているという


「企業で働いていた当時は中小企業を支援するような仕事をしていたのですが、よくあるのは社長が『これをやりたい』と言ったときに、それができる実力を持った社員はいるけど、多忙で新事業まで手が回らないというケースでした。羽生田鉄工所もそうなってしまうのはもったいない。そう思ったときに、自分が入社してCFRPの事業を伸ばし、会社をもっと成長させたいという気持ちが湧いてきました。ゆくゆくは後継者として会社を引き継ぐことも視野に入れながら、まずは父である社長に入社したいと伝えました」
それまで一度も「継いでほしい」とは口にしなかった父も、大陸さんの入社を喜んだという。「僕も含めて兄弟は男3人もいて誰も継ごうとしなかったので、今思うと悲しいなと思いますよね。当時勤めていた会社には父の紹介で入社したのですが、その会社の社長が経営についていろいろと教えてくれてたんです。結局そのあと羽生田鉄工所に入社しているので、よく考えたら父にハメられていた気もします」


JAXAと開発した新技術を携え「アトツギ甲子園」へ

そうして「CFRPの事業を伸ばしたい」という思いから家業に入った大陸さん。2018年には「JAXA航空イノベーションチャレンジ powered by DBJ」の実施団体として採択され、プロダクトあたりの炭素繊維消費量と製造時に出る端材などのロスを最小限に抑えるCFRPのミニマルな設計技術を開発。AIによって最も効率の良いCFRPの形を出力することで、少ない量のCFRPでも同じ強度を作り出すことが可能になった。

カバーが炭素繊維で補強されたドローン。AIのシミュレーションに基づく最適な形で炭素繊維が張り巡らされており、強度も高い


使用するCFRPの量が減るということは、材料費を抑えられるということ。また、AIによって成形イメージを作るため、労務費も削減できる。そうして製造にかかるコストを削減できれば、大手企業だけでなく中小企業もCFRPを使った付加価値の高いプロダクトを作りやすくなり、日本のものづくりの価値もさらに上がるはずだと考えた。この技術を産業に実装させるために新規事業を立ち上げ、CFRPを使ったものづくりを国内にもっと広めたい——。大陸さんがそんな構想を描き始めていたとき、偶然見つけたのが「アトツギ甲子園」だった。「技術って、せっかく開発されてもそのまま眠ってしまうことが結構あるんです。すごい技術を持っていても、誰も買ってくれなかったら結局広まらない。JAXAと開発したこの技術もそうなってしまうのはもったいないので、絶対に産業に実装したいと思っていました。それで、この技術を使った新規事業を立ち上げようと思っていたときに、アトツギ甲子園の投稿がSNSで流れてきたんです」

本体に電気配線と基盤を埋め込む一体成形も可能。こうすることにより、部品点数を削減し中の空間が広くなる等のメリットが生まれる


刺繍機で炭素繊維を縫い付けた布。先ほど見た炭素繊維入りのドローンは、これを型にはめて樹脂を流し込み、熱と圧力をかけて成形することで作られる


SNSでフォローしていた自分と同じ立場の後継ぎの人たちが、「アトツギ甲子園」なるものに次々にエントリーしていた。それを見た大陸さんも「じゃあエントリーしてみようかな」と軽い気持ちで応募。するとそのまま書類選考と地方大会を通過し、あれよあれよという間に決勝大会まで駒を進めたのだった。「アトツギ甲子園って、エントリーするだけでWEBサイトに載るじゃないですか。なので、新規事業のPRとして使えるならすごくいいなと思ってエントリーしたんです。そもそも書類選考も通ると思っていなくて、ましてや決勝まで進めるなんて正直思っていなかったので、実は決勝大会の日程も空けていませんでした。ピッチを作るのも大変でしたけど、大会日程がちょうど繁忙期でもあったので、業務の調整も大変でしたね」

仮に従来のCFRP技術で作った場合と比較して、重さを5〜7割程度にまで軽量化できるという


学会など、業界の専門的なプレゼンテーションの経験はあったが、「アトツギ甲子園」のように業界の外の人に向けたプレゼンは初めて。普段よりも圧倒的に短い4分間という時間の中で、専門的な内容をいかに短くわかりやすい言葉で伝えるかに苦労した。大会当日も周りに圧倒されたという。「地方予選大会のとき、始まるまで他の出場者の方と交流していたのですが、みんな『不安だ』とか『ピッチは苦手』と言ってたんです。でも実際はみんなめちゃくちゃうまくて(笑)。『ちょっとこれはキツイな』と思いつつ、僕はあんまり抑揚をつけて話したりできないので、用意していた内容を淡々と話すしかありませんでした」

アトツギ甲子園に出場することは会社にも告げず、繁忙期で忙しい業務の合間を縫ってほぼ1人でピッチを作り上げた


大陸さんはそんなふうに振り返るが、結果的に決勝大会への切符を手にできたのは、大陸さんの事業アイデアやピッチの内容が評価されたということにほかならない。決勝大会に向けてはファイナリスト1人ひとりにメンターがつき、発表資料のブラッシュアップなどもサポートしてもらえた。もらったアドバイスを踏まえ、地方大会で使った資料やピッチの構成もバッサリと変えたという。
「メンターの方からいろいろとアドバイスをいただいたあとに『でも決めるのは自分だからね』と言われたのが印象に残っています。つまり、言われたことをそのまま取り入れても意味ないよ、ということですよね。今は専務という立場もあり、会社では人とアイデアを出し合うようなことは少ないので、壁打ち的なものを経験できて、自分にはない気づきをもらえたのがすごく良かったです」

「アトツギ甲子園」を経て見えた、進むべき道

専門的な技術やBtoB向けの事業アイデアがどこまで伝わるか不安だったが、大会終了後には審査員からの評価も高かったと聞かされた。決勝大会の後には投資の話も舞い込んだという。「でも、うちのメインはあくまで圧力容器やその周辺の装置を製造・販売する事業なので、株式を同一にしている以上、CFRPの新事業に対してだけ投資することはできないんです。それで、会社を分ける必要があるのかなと思い始めました。結局条件が合わず投資の話はなくなったのですが、早めに投資を受けられる体制を作ったほうが良いと思い、いまは新会社設立に向けて動いています」

新会社設立後は、羽生田鉄工所の専務取締役と新会社の代表を兼務する予定だという大陸さん


ピッチ後の講評では「初期投資にかかる資金はどうするのか」という指摘もあり、すでに資金調達に向けて具体的な動きを始めている。加えて、「アトツギ甲子園」をきっかけに投資の話が来たことで、他のビジネスコンテストやピッチイベントにも参加してみたいと思うようにもなった。ピッチで描いた事業の実現に向けて、勢いは加速している。
「アトツギ甲子園に出たことで、どこをブラッシュアップすべきか、どの方向に努力すべきか分かったのが大きかったです。出てなかったら、変なところでくすぶっていたかもしれないし、無駄な準備をしていたかもしれない。新しいアイデアは、ひとりで考えているだけじゃなくて、人目に付くことが大事なんだと思います」

「アトツギ甲子園のエントリーを迷っている人は絶対に出した方がいい」と断言する大陸さん


今回の取材の中で、幼い頃から「将来の夢を持ったことがなかった」と話していた大陸さん。しかし今は、家業を通じて日本のものづくりを支えたいという夢をはっきりと語る。「ものづくりは社会を豊かにするものだと思うのですが、今の日本では、その作り手があまり豊かになれないという課題があると思っています。それは今の日本のGDPや製造業の賃金の低さにも表れていますけど、今僕が取り組んでいるCFRPを使ってものづくりのハードルを下げる事業が、そうした問題を解決する手段のひとつになりたい。アトツギ甲子園のピッチで発表した技術は、日本のものづくり産業のレベルアップを図れるものだと思うので、これをしっかり実装して、作り手も豊かになれる社会を作りたいと思っています」

ピッチの講評で指摘を受けた部分がクリアになりつつある今、再び「アトツギ甲子園」にエントリーすることも考えているという


大陸さんの落ち着いた語り口の裏に感じた、日本のものづくり産業への確かな熱。「アトツギ甲子園」でも語ったこの夢は、着実に前進している。
自分たちの”ものづくり”だけを考えるのではなく、時代や産業のニーズに応えるため、羽生田鉄工所は常に変化を続けてきた。大陸さんもまた、会社の枠を超えて産業のため、あるいは日本社会のために、新たな事業を確立させようとしている。羽生田鉄工所のスピリットを受け継ぐ大陸さんの挑戦は、始まったばかりだ。



株式会社羽生田鉄工所長野県長野市柳原2433ホームページ:https://www.hanyuda.co.jp/



ライター、カメラマン、編集:ココホレジャパン株式会社(https://kkhr.jp/
制作日:2023年9月~11月 ※第4回「アトツギ甲子園」特集記事引用




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